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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「バカ野郎、てめえに叱言などをいっていられるものか。こんどだけは、かんべんしてやるから、これをしょって、早くあるけ」
と、今夜は八風斎の鼻かけ卜斎も、家にかえって落ちつくようすもなく、書斎をかきまわして、だいじな書類だけを、一包みにからげ、それを蛾次郎にしょわせて、夜逃げのように、立ちのいてしまった。
門をでると、いま泣いた烏の蛾次、もうけろりとして、
「親方、親方、こんな物をしょって、これからいったいどこへでかけるんですえ」
とききだした。
「戦ばかりで、この人無村では仕事ができないから、越前北ノ庄へ立ちかえるのだ」
「え、越前へ」
蛾次郎はおどろいた。
「いやだなア」
と、口にはださないが、肚のなかでは、渋々した。せっかく、菊池半助が、ああやって、徳川家で出世の蔓をさがしてくれたのに、越前なンて雪国へなんかいくなんて、なんとつまらないことだと、また泣きだしたくなった。
ちょうど、夜逃げのふたりが、人無村のはずれまできた時、――八風斎がふいにピタリと足をとめて、
「はてな? ……」
と、耳をそばだてた。
「な、なんです親方」
「だまっていろ……」
しばらく立ちすくんでいると、たちまち、ゆくての闇のなかから、とう、とう、とう――と地をひびかせてくる軍馬の蹄、おびただしい人の足音、行軍の貝の音、あッと思うまに、三、四百