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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

寺には、僧侶が斬りころされ、森には裸体の老幼がいましめられて、飢えと恐怖におののいている。戦国の悲しさには、この暴悪なともがらの暴行に、駈けつけてくる代官所もなく、取りしまる政府もない。

こうして呂宋兵衛たちは、この村を食いつくしたら、次の部落へ、つぎの部落を蹂躪しきったらその次へ、群をなして桑田を枯らす害虫のように渡りあるく下心でいるのだ。それは、この一族ばかりでなかったとみえて、戦国時代のよわい民のあいだには「狼と野武士がいなけりゃ山家は極楽」と、いう諺さえあった。

さて、いっぽうの竹童は、どこへ降りたろう。

降りたところで、ふと見るとそこは、つごうよく、五湖方面から法師野地方へかよう街道のとちゅう。小広い平地があって、竹林のしげった隅に、一軒の茅葺屋根がみえ、裏手をながるる水勢のしぶきのうちに、ゴットン、ゴットン……水車の悠長な諧調がきこえる。

さっきは、呂宋兵衛の遠術になやまされて、クロがだいぶつかれているようすなので、竹童は、水車のかけてある流れによって、鷲にも水を飲ませじぶんも一口すって、さて、一刻もはやく合図の狼煙をあげてしらせたいがと、あっちこっちを見まわした後、クロをそこへ置きすてて、いっさんにうらの小山へ登りだした。