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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「そこが男の度胸じゃねえか、鏃師の蛾次郎ともあるおまえが、それぐらいな度胸がなくって、将来天下に名をあげることができるもんか、ええ蛾次ちゃん、しッかりしろやい」
と燕作は、ここ苦心さんたんで、蛾次郎の持ち金のこらず巻きあげようとつとめている。
蛾次郎が、身にすぎた小判を、ザラザラ持っていたのは、向田ノ城の一室で、菊池半助からもらった金だった。――かれは、本来その報酬として竹童の鷲をぬすんで、裾野戦のおこるまえに、菊池半助の陣中へかけつけなければならなかったはずだが、密林のおくで、鷲をぬすみそこねて、竹童のため、したたか痛められていらい、もうこりごり、のこりの金で買食いでもしようかと、甲府をさしてきたとちゅう、ここで張り番役をしていた燕作の目にとまり、ひっぱりこまれたものである。
そしてさっきから、うまうまとふところの小判を、あらかた巻きあげられ、もう三枚しか手になかった。燕作は、その三枚の小判をふんだくってしまったら、おとといおいでと、小屋からつまみだしてしまうつもりだ。
「おい、蛾次公先生、いつまで考えこんでいるんだい」
「だけれど、こわいなあ、この三枚をだして負けになると、おれは、空ッぽになってしまうんだろう」