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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

この鉄壁の塔へかくれて、なかから扉をもってふせぐさんだん。

咲耶子も四勇士も、あッ、しまった! と階段へ追いすがってきたが、呂宋兵衛はそれを尻目にかけて、早くも塔の扉をひらき、そのなかへ風のごとく姿をすいこませてしまった。

けれど、かれのからだがそこへかくれるやいな、漆のような塔内の闇から、とつじょ、

「奸賊すさりおろう!」

声のひびきに呂宋兵衛の五体、はじき返しに、階段の下までゴロゴロとけおとされてきた。

忍剣をはじめ小文治や龍太郎は、得たりとばかり、得物をすてて呂宋兵衛に折りかさなり、歯がみをしてもがきまわる奸賊を高手小手にからめあげた。――が、いま頭上でひびいた声の主は、そも何者であろうか、味方にしては意外なと、思ってふと見あげた人々は、

「や、わが君」

と、階段の下へひれふしてしまった。

「オオ、心地よいこと!」

そのとき、多宝塔の扉をはいして、悠然と壇上に床几をすえ、ふくみ笑いをして、こう見下ろしたのは、伊那丸であった。白綸子の着込みに、むらさき縅しの具足、太刀のきらめきもはなばなしい。

そのわきに、片膝折って、手をついたのは、すなわち軍師小幡民部である。