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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「お、あなたは人穴の……」
「ウム、呂宋兵衛じゃ、ああ、おまえは、鏃師鼻かけ卜斎の弟子だったな」
「ええ、よくごぞんじでございますね。おおせのとおり蛾次郎という者。……ところで呂宋兵衛さま」
「なんじゃ」
「ここはいったい、東海道のどのへんにあたりましょう」
「まるで方角ちがい――北陸道の糸魚川と申すところだ」
「すると向こうに見える岬は伊豆の国とはちがいますか」
「あたりまえだ、北日本の海に伊豆はない。すなわちあれが能登の半島、また、うしろに見える山々は、白馬、戸隠、妙高、赤倉、そして、武田家と鎬をけずった謙信の居城春日山も、ここよりほど遠からぬ北にあたっておる」
「へえ……そしてあなたは、ここからどこへ行こうってえつもりなんです?」
「京へのぼるのじゃ」
「いいなあ。わたくしも一つお供につれてッてくれませんか」
「おまえにはたのみがある。蚕婆と早足の燕作、それに丹羽昌仙、この三名にあったら、わしが京都へのぼっておるゆえ、あとからかならずくるようにと、言伝をしてもらいたい」
「燕作は大きらいだけれど、あとのふたりは引きうけますよ。……オヤ、アッ、大へん……」
なにを見たか、にわかぎょうてんしてうろたえだした蛾次郎、さようならともいわず、クロにとび乗って、ツーと空へ逃げてしまった。