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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「ちくしょッ――」

バラリと網をなげた者がある。

鉛の重味にしばられて、とうとう鯔はそのなかにくるまってしまったが、同時に頭の上で、

「わッはッはははは、あはははは。やい、野郎ども、いいかげんにしねえか」

と、ふたりして、笑う声がする。

ひょいと仰向いてみると、船楼の櫓に腰かけている頭領の龍巻と、いま下にいた呂宋兵衛。

どッちも卓へ頬杖をつきながら、下のありさまを見物して、仲よく酒を飲んでいる。

「じょうだんじゃねえ。お頭領、こいつア、いったいどうしたわけなんで……」

手下どもは、わいわいそこへ寄ってきて、ただふしんにたえぬという面もち。

「しんぱいするな、こりゃ和田呂宋兵衛といって、おれが長崎にゴロついていた時代の兄弟分だ」

「へえ? ……」

「見ろ」

と、龍巻は、じぶんの二の腕と、呂宋兵衛の二の腕をまくりあげて、手下どもに見くらべさせながら、

「このとおり、ふたりとも蜘蛛の文身を彫りあって、おれは海で一旗あげるし、呂宋兵衛は山に立てこもって、おたがいに天下をねらおうとちかって別れた仲なのだ」

「なるほど、そういう兄弟分があるということは、いつかお頭領の話にも聞いていました」