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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「さてと、ことしは天正十年、もう十二月だな……」

この海を見、この異国情調をながめても、呂宋兵衛には、詩をつくる頭もないと見え、みょうなことをつぶやいている。

「天正十年、――へんな年だッたな、ばかに天下をかきまわした年だ。まずちょっとおもいだしたところでも、春早々、甲斐の武田が亡ぼされ、六月には、信長が本能寺で焼打ちにあった。うまくやったのは猿面の秀吉、山崎の一戦から柴田も佐々も滝川も眼中になく、メキメキ羽振りをあげたが、ずるいやつは徳川家康だ。どさくさまぎれに、甲州から信濃の国をわが物にして、こっそり領分をふくらませてしまった。――だが、まずゆくゆくの天下取りは、どうしても秀吉だろうな。北ノ庄の柴田勝家、こいつもなかなか指をくわえてはいまい。いまに秀吉と、のるかそるかの大勝負だ。……ウム、のるかそるかは俺のこと、手ぶらで都入りも気がきかない。手近なところでなにか一つ、秀吉のやつに取りいるお土産を、かんがえようか……」

その時、コツコツ扉をたたく者があった。

「オイ、兄貴、いねえのか、寝ているのか!」

「だれだ」

「龍巻だ、あけてくれ」

「いや、こいつはすまなかった」