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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「順序として、北国筋の動静をさきに聞きたい、小文治そちのさぐりはどうであった」
「はッ」
威儀をただして、小文治が復命する。
「多宝塔のいただきから、たくみに鷲をつかって逃げうせました呂宋兵衛は、どうやら、越前北ノ庄を経て、京都へ入りこみましたような形跡にござります」
「ウーム、京都へ!」
小幡民部がうなずいた。
「おりから、裾野にいた鏃鍛冶の卜斎も、柴田の家中へひきあげて、北庄城では雪解けとともに、筑前守秀吉と一戦をなす用意おさおさおこたりなく、国境の関はきびしい固めでござります」
「それでおよそのようすはわかった……」
と伊那丸はつぎに山県蔦之助へことばをむける。
「して、東海道のほうにはなんぞかわりはないかの」
「若君――」
すぐ受けて蔦之助、
「容易ならぬうわさをきいてござります」
といった。
「なに、容易ならぬうわさとな?」
「また徳川の痩武者どもが、この砦へ攻めよせてくるとでもいうことか」
忍剣は気早な肩をそびやかした。
「それとはちがって、世にもふしぎなうわさでござる」
と、蔦之助は伊那丸の顔をあおぎ見ながら、
「――若君、おおどろき遊ばしますな、そのうわさともうすのは、お家滅亡のみぎり、あえなく討死あそばしたと人も信じ、またわれわれどもまでが、うたがって見ませぬ四郎勝頼さま」