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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
――策はないか! 策はないか! なにかいい名策はないか! と呂宋兵衛はややしばらく、額を押さえて考えこんでいたが、やがてのこと、
「うむ、どうしても、こよいをはずしてはなおまずい。昌仙、耳を……」
決断がついたか、あの大きな碧瞳をギョロリと光らし丹羽昌仙の耳もとへなにかの計略をささやいて、ことばのおわりに、
「よいか!」
ときつく念をおした。
「ご名案、心得ました」
「ではさきにでかけるぞ、燕作、その菊亭の館へあんないをしろ」
呂宋兵衛は、くろい蛮衣をふわりとかぶって立ちあがり、早足の燕作をさきにたたせて、風のごとく、天ヶ丘から駈けだした。
満山を鳴らして、ゴーッという一陣の松風が、朧月へ墨をなすッてすぎさった。と、呂宋兵衛が、立ちさったのち、――南蛮寺の絵蝋燭は一つ一つふき消されて、かなたこなたから狩りだされた四、五十人の浪人が、いずれも覆面黒装束になって、荒廃した石壁の会堂へあつまってくる。
ガチャン! という錠前をはずす音。ガラガラとおもい鉄の扉を開けるひびき――。そして狼が食い物へとびつくかのように、覆面の者どもが一せいにそのなかへゾロゾロはいると、たちまち鉄砲、鉄弓、槍、捕縄など、おもいおもいな得物をえらび、丹羽昌仙の指揮にみちびかれて、百鬼夜行! 天ヶ丘からシトシトと京の町へさしてまぎれだした。