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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

木の葉笛竹童嘲歌

一

木の葉笛竹童嘲歌

一

風もないのに、紅梅や白梅の花びらが、釣り橋の水に点々とちって、そのにおいがあやしいまで闇にゆらぐ。――と、更けわたった菊亭家の裏門のあたりから、築土をこえて、ヒラリと屋敷のなかへ忍びこんだ三つの人かげがある。

月ヶ瀬の景趣をちぢめたような庭作り、丘あり橋あり流れあり、ところどころには、蟇のような石、みやびた春日燈籠の灯が、かすかにまたたいていた。

その館の奥庭を、もののかげからかげへ、暗がりから暗がりへ、ソロ……ソロ……と息をころして忍んでいった三つの影は、やがてひろい泉水の縁へでて、たがいになにかうなずき合いながら、ひとりは右へ、ひとりは左へ、別れわかれに姿をかくして、そこにうッすらと立ちのこったのは、和田呂宋兵衛だけになった。

呂宋兵衛はじッとたたずんで、泉水のなかほどをみつめていた。そこには泉殿とよぶ一棟の水亭がある。泉の亭の障子にはあわい明かりがもれていた。その燈影は水にうつって、ものしずかな小波に縒れている。

「…………」

呂宋兵衛は唇だけをうごかして、印咒のまなこを閉じだした。と思うと、そッと足もとの小石をとって、池のなかへ、ポーンと投げる。