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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「これ、用意の駕籠を」

闇にあたって、丹羽昌仙の声がひびいた。

「おうッ」

というと覆面のむれ、ガチャガチャと一挺の鎖駕籠を舁きこんできて、七重八重にしばりあげた貴人の僧をそのなかに押しこみ、それッとかつぎあげるや否、まッ黒にもんで、天ヶ丘の南蛮寺へいそぎだした。

「ええ、しまった!」

「わが君ッ――」

悲痛な声が、血煙のなかに残った。満身の太刀傷にさいなまれたふたりの従僧、斬ッつ、追いつ、小半町ほど鎖駕籠を追いかけたが、刀おれ力もつきて、とうとう馬場のはずれの若草の上で、たがいに喉と喉とを刺しちがえたまま、無念の鬼となってしまった。

三

東山に、金色の雲がゆるぎだした。

京の大宮人が歌よむ春のあけぼのは、加茂の水、清水の花あかりから、ほのぼのと明けようとしている。

だれもいない南蛮寺、緑青のふいた銅瓦の上へ、あけぼのの空から、サッ――と舞いおりてきた怪物がある。みると、ひさしく裾野からその影をたっていた、竹童の愛鷲、――いやいや、いまでは泣き虫の蛾次郎が、わがもの顔に乗りまわしている大鷲だ。

「やあ、いよいよここが都だな、ゆうべは伊吹山でさびしい思いをしたが、きょうはひとつ、クロにも楽をさせて、京都の町でブラブラ遊んでやろう」