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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「あぶないぞウ!」

と、なだれる群集。

「よるなようッ」

「母アちゃあん――」

悲鳴! 叫喚! 子をかばい、親をだいて、砂けむりをあげる人情地獄。それは面も向けられない砂ほこりであった。

「ざまをみろ、蛆虫めら」

「祭がやりたかッたら、なぜ天ヶ丘へ付けとどけをしておかねえのだ」

「商いがしたいと思うなら、ここから近い南蛮寺へ、さきに礼物を持ってこい」

かってなことを吠えた上に、カラカラッとあざわらった三名の酒乱。

「おおッ、こんどは今宮の社へかけあいをつけろ!」

「うむ、いいところへ気がついたぞ。すぐ目のまえの南蛮寺へ、なんの貢物もせずに祭をするとは太い神主だ。グズグズぬかしたら拝殿をけちらかして、あの賽銭箱を引ッかついでゆけ!」

神慮をおそれぬ罰あたり、土足、はだかの皎刀を引っさげたまま、酒気にまかせてバラバラッと八神殿の階段をのぼりかけた。

二

なだれを打って逃げかけた群集も、このさまをみて、どうなることかと、こわいもの見たさの好奇心に、遠くからアレヨアレヨとながめている。

すると。

八神殿の朱柱のかげから、ヒラリとあらわれたふたりの男があった。

右の丸柱から駈けよってきたのは、白衣に白鞘の刀をさしたひとりの六部、左からぬッと立ったのは墨の法衣をまとって、色しろく、クリクリとした若僧である。