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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

龍太郎は助太刀にでようとおもうまに、みごとに勝負をつけてしまった若者の早技に、舌をまいて感嘆していた。そして、ふたりはいつかそこを歩みだして、浜松城に近い濠端を、しずかに歩いていたのである。

すると、大手門の橋から、たちまち空をこがすばかりの焔の一列が疾走してきた。龍太郎は見るより舌うちして、伊那丸とともに、濠端の柳のかげに身をひそませていると、まもなく、松明を持った黒具足の武士が十四、五人、目の前をはしり抜けたが、さいごのひとりが、

「待て、あやしいやつがいた」とさけびだした。

「なに? いたか」

バラバラと引きかえしてきた人数は、いやおうなく、ふたりのまわりをとり巻いてしまった。

「ちがった、こいつらではない」

と一目見た一同は、ふり捨ててふたたびゆきすぎかけたが、そのとき、

「ややッ、伊那丸、武田伊那丸ッ」と、だれかいった者がある。

四

朱柄の槍をもった曲者が、城内の武士をふたりまで突きころしたという知らせに、さては、敵国の間者ではないかと、すぐ討手にむかってきたのは、酒井黒具足組の人々であった。

運わるく、そのなかに、伊那丸の容貌を見おぼえていた者があった。