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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「ウーム……」
と、打ったおれた泣き虫の蛾次郎は、脾腹をおさえてフンぞったとたんに、昼間のうち胃袋を楽しませたご馳走をのこらず口から吐きだして、厩のまえにへたばってしまった。
馬は、見むきもせず、われ関せず焉と、かッたるそうに目の皮をふさいでいる。
――更けてくると、祭の夜も寂としてものさびしい。
一陣の山嵐が、鞍馬山の肩あたりから、サーッと冷気をふり落としてきたかと思うと、八神殿の冠桜の下あたりに――竹童のお師匠さま果心居士のすがたが、めずらしくもほのかに見えたのである。そして、もくもくとして裏宮のほうへ杖をひいていった。
果心居士と愛弟子
一
右手に、名刀般若丸を、ひだりの手では、地や蜘蛛の巣をなでまわしながら、ソロリと、八神殿の床下をはいだしてきた者がある。
それはさっき、泣き虫の蛾次郎に、さんざんな悪口や揶揄をなげられていた盲の少年――鞍馬の竹童。
あたりをさぐって、そとにでれば、夜は四更の闇ながら、空には、女菩薩たちの御瞳にも似る、うるわしい春の星が、またたいている。
鳥の巣のようなかれの頭、土にまみれた肩や肘、そして、血のにじんだかれの素足――。