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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

「なに、人がおぼれていると?」

「やッ――また沈んでいった、木隠木隠、早くこっちへ松明をかざしてみてくれ」

「待て、ただいままいるから」

と龍太郎は、また二つ三つの岩をとんで、忍剣のそばへ寄っていった。

焔を高くささげながら、じッと、あわだつ水面を透かしてみていると、やがて真白な泡がブクブクと湧きあがって、そのなかから、蓬のような、人間の黒髪がういてみえた。

「しめた!」

と忍剣は、岩につかまって鉄杖のさきをのばした。おぼれている者は、まだ多少の意識があるとみえて、目のまえにだされた鉄杖へシッカリと、両手をかけた。

「オオ、はなすなよ――」

と声をかけながら、ズーと岩の根へひき寄せると、滝壺のなかのものはプーッと水を吹きながら、けんめいにはい上がろうともがくのである。

「拙者の手にすがるがよい」

龍太郎が片手をだした。

氷のようにこごえた手が、ビッショリと雫をたらしてそこへすがってきた。――と同時に、滝壺のなかからはいあがってきた少年をみたふたりは、おもわず声をあげて、

「やッ、そちは竹童ではないか!」

見まもると、上にいた伊那丸も、

「なに、竹童じゃ……」

とうたがうように叫んだ。