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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

その時――

夜はまだ明けぬが有明けの月、かすかに雲の膜をやぶって黒い鞍馬の山の端にかかっていた。

白き衣をつけた居士のすがたとみえたのは、はからざりき一羽の丹頂! まっ白な翼をハタハタとひろげて、四人の上に輪をえがいて舞いめぐり、あれよと見るまに有明けの月のかげをかすめて、いずこともなく飛んでしまった。

しかし、四人はまだ、なお岩の上に、果心居士がいるような心地がして、その上まで登ってみた。そこにはだれもいなかった。

ただ残っていたのは一本の刀。

滝壺のなかに落としたとばかり思っていた、竹童の愛刀般若丸は、水にもぬれずにおいてある。

「や、まだなにやらここに……?」

と、伊那丸はたいまつの光をよんで足もとをみつめた。

見ると、岩をけずって、数行の文字が小柄で彫りのこされてある。それは、うたがう余地もなく、果心居士らしい枯淡な筆せきで、

父子の邂逅はむなしく

小太郎山の砦はあやうし

とただ二行の文字であった。

しかし、この二行にすぎぬ文字の予言は、武田伊那丸にとって、否、その帷幕の人すべてにとって、なんと絶望的な、そして戦慄すべき予言ではあるまいか。

泣き饅頭