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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
ここらの山や森などは、ほとんど、坦々たる芝生の庭をかけるようなものだろう。
「あれ、ごらんあそばせ」
龍太郎が、そのうしろ姿を指さしていう。
「竹童め、今朝はすッかり忘れております」
「なにを?」
と、伊那丸がきく。
「きのうまでは盲であったが、老先生のお力で、にわかにアアなったことをまるで忘れているらしゅうございます」
「お、……それが童子らしいところである」
微笑をもってながめていた伊那丸は、愛らしいやつ、――たのもしいやつ――そう思ってうなずいた。
やがて、その三人も、雷神の滝の岩頭をおりた。そして、裏道をめぐって、敵の廻しものに覚られぬように、ひそかに寒松院の並木にかくれ、腕をさすッて、合図の狼煙を、待ちうけていた。
二
「オオ、寒い」
正気にかえって、ポカンとあたりを見まわしたのは、ゆうべ、今宮神社の境内で、馬にけられてヘドを吐いて、あのまま気絶していた泣き虫の蛾次郎。
「オオ寒、寒、寒……」
ブルブルガタガタふるえている。
ひょいと見ると、目のまえには、じぶんの吐いたご馳走やら、馬の糞やら紙屑やらで、きれいな物は一つもない。
この汚穢だらけな地面の上に、気をうしなって寝ていたかと思うと、いくら洒アつくな蛾次郎でも、さすがにすこしあさましくなって、今朝の寝起きは、あまりいい気持でなかった。