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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

なにしろ――前途は洋々たるものだ。

ひとまず、きょうは天ヶ丘へかえって、ゆッくりと考えたうえにしよう。

おお、天ヶ丘といえば、おればかりご馳走を食べあるいて、クロのことをすッかり忘れていた。あの丘の奥の松の木へ、鎖でしばりつけておいたから、逃げる気づかいはちっともないが、きッと腹をへらしているだろう。

こう気がついたので蛾次郎も、にわかに足をはやめて今宮神社の内から、天ヶ丘のほうへ歩きだした。

すると、ちょうどその麓。

南蛮寺ののぼりにかかろうとする参道の並木を、忍びやかにゆく人かげがある。

まだ朝霞がたちこめているので、おおかた薪拾いの小僧か、物売りだろうくらいに思っていた蛾次郎は、だんだん近づいて見てびっくりした。どうも、それは鞍馬の竹童らしい。

「おやッ」

蛾次郎は、もういっそうちかくよってみた。まちがいなく竹童である。

「だが、へんだなあ。……あいつ目が見えないくせにして、いやにまっすぐに向いて歩いていやがる。ははア読めた……よく盲というやつは、見えるふりをして歩くというが、竹童もそれであんなにすましているんだな。うふッ、……また一つからかって見てやろうか」