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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
地を裂く雷火
一
木登りは、また竹童の得意とするところ。
かれが猿なら、竹童はむささびのごとく敏捷だ。ピョンと枝へ飛びつくと、もう蛾次郎の踵をつかまえた。
「わッ!」と蛾次郎。
あぶなくすべり落ちそうになったところを、蹴はなして、ザワザワと横枝へはいだした。人の重味で樫の枝が弓なりになって崖へさがる――すぐあとからまた、竹童が猿臂をのばしてきた。南無三! 蛾次郎はポンと枝から崖へ飛びうつっていちもくさんに天ヶ丘へかけのぼった。
鷲だ、鷲だ!
こんな時には手のとどかない、地面をはなれてしまうのが一番安全。
こう思って蛾次郎は、いつぞや、クロをつないでおいた松の木の下まで、無我夢中にかけのぼってきてみると鷲は、人の跫音を聞きつけて、羽ばたきの音を高々とさせている。
「おお、いたな! ありがてえ」
息をはずませてかけよった。
そして汗を拭くまもなく、クロの足をしばりつけてある鎖をガチャガチャ解きはじめた。だが、――意地わるく、急げばいそぐほど、鎖は笹や枯草にひっからんで、容易にむすびこぶしが解けない。
とこうするまに、鞍馬の竹童、ヒョイと見うしなった蛾次郎のすがたを血眼で、さがしながら、もうすぐそこまで、のぼってきた。