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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「あいや、それにおわす貴人のご僧に申しあげまする。われわれは武田家恩顧のともがら、ここにいますは、お家のご次男伊那丸さまにおわします。ひそかにおうわさのあとをしたって、遠き小太郎山のとりでより、ここまでお迎えに参じましてござります。このうえはなにとぞ、もとの甲山にお帰りあそばして、あわれ、甲斐源氏再興のために、臥薪嘗胆いたしている若君をはじめ、われわれどもの盟主とおなりくださいますよう。またそれをごしょうちくださいますとあらば、なにとぞ、ここにて久しぶりに、若君へご対顔おおせつけ願いとうぞんじます」

誠意をこめて、ふたりがいうと、

「うむ……」と駕籠のうちで、かすかにうなずく声がした。

「さてはおゆるし? ……」

と龍太郎、忍剣と目くばせしながら、おそるおそる寄って駕籠の塗戸へ手をかけ、

「若君、ご対面なされませ」

スーと開けると、なかには、まぎれもなきひとりの僧形、網代笠をまぶかにかぶって、うつむきかげんに乗っていた。

「おお、お父上でござりましたか。おなつかしゅうぞんじまする。わたくしは伊那丸でござります――天目山のご合戦にもい合わさず、むなしく生き永らえておりました。