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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

「若君、耳を耳を」と、いいながら龍太郎も、かたく眼をつぶった。

その時――

轟然たる音響とともに、仏像のなかにしかけてあった火薬が爆発した。――浜松城の二の丸の白壁は、雷火に裂かれてくずれ落ちた。

ガラガラと、すさまじい震動は、本丸、三の丸までもゆるがした。すわ変事と、旗本や、役人たちは、得物をとってきてみると、外廓の白壁がおちたところから、いきおいよくふきだしている怪火! すでに、矢倉へまでもえうつろうとしているありさまだ。

「火事ッ、火事ッ――」

降りかかる火の粉をあびて、口々にうろたえた顔をあおむかせていると、ふたたび、どッと、突きくずしてきた白壁の口から、紅蓮をついてあらわれた者がある。無反りの戒刀をふりかぶった木隠龍太郎、つづいて、武田伊那丸のすがた。

「曲者ッ」

と下では、騒然と渦をまいた。その白刃の林をめがけて、焔のなかから、ひらりと飛びおりた伊那丸と龍太郎――

ああ、その危うさ。

三

小太刀をとっては、伊那丸はふしぎな天才児である。木隠龍太郎も戒刀の名人、しかも隠形の術からえた身のかるさも、そなえている。

けれど、伊那丸も龍太郎も、けっして、匹夫の勇にはやる者ではない。