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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

何ができたのだろう?

すると、ややあってから、一方の幕をサッとはらって、羽柴筑前守秀吉、ズカズカと大股にあるいてきた。

「殿、――しばらく、ただいまお支度を設けます」

あわてながら追っかけてきたのは、秀吉の脇小姓、朝野弥平次、加藤孫一。

抱えてきた楯を、バタバタと四、五枚そこへ敷きならべて、なおも、あとから運んできたのを、まわりへ立てようとすると、秀吉手をふって、

「うっとうしい」と、うしろ向きになった。

「はッ……では」

と陣礼儀をして、ふたりがそこをさがると、秀吉は鎧草摺をガチャリと楯の上へ投げすてて、まッぱだかになった。

そして、一片の布をもって、前に軍兵がつくっていった、野陣の野風呂へドブリと首までつかりこんだ。

「ウーム……ウウム……」

と、秀吉、湯のなかに首まではいって、さも心地よげにうなっていたが、ザブリと一つ顔をあらって、

「ああ、よい湯かげん――」

と、湯穴のフチにしいてある楯の上に腰かけ、両の足だけを、ダラリとなかへブラさげていた。そしてときどき無意識にジャブリジャブリとさせながら、

「智恵じまんな一益も、ゆうべは定めしおどろいたろう……」