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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
ところへ、バタバタと早運びの足音がひびいてきた。フト見ると、加藤虎之助、はるかにはなれて具足の膝を地につかえる。
「お上」
「ウム、虎之助」
「近江路へやりました井上大九郎、その他の者、ただいま武田伊那丸をご陣屋まで召しつれましたが」
「や、帰ってきたか。ウム、伊那丸も同道して。――そうか。では表陣屋西幕のうちに床几をあたえて、鄭重におとりなし申して置くがよい」
これだけの言葉をはくうちに、秀吉は、肌着小手脛当をピチンと着けて、皆朱碁石おどしの鎧をザクリと着こみ、唐織銀文地に日月を織りうかした具足羽織まで着てしまった。
そして鎧のアイビキ紐、草摺のクリシメ紐、陣太刀の緒と、端からキチキチむすんでゆく指の早さといったらない。まるで神技と思わるるくらいだ。もっとも秀吉ばかりでなく、およそ戦国の世に男とうまれ武士の子と生まれたほどの者は、みな、陣太鼓の音が三ツ鳴るあいだに、具足着こみのできるくらいの修養を、ふだんのうちにつんでいた。
「孫一」
武将いでたちとなると、秀吉の威風、あたりをはらって、日輪のごとき赫々さがある。
「はッ、御意は?」
「右陣にいる福島市松のところへ伝令せい! ただ今、武田伊那丸が見えたによって、あずけておいた一品、そっこくここへ持参いたせと」