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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「うっかりして、昼の食物をおそくいたした。さだめし空腹になったであろう」

「どういたしまして、それどころではございません」

こういった者こそ、かの鞍馬の竹童なのである。

その日からおよそ二十日ほどまえ、海月のようにただよって、湖水におぼれていた竹童と蛾次郎が、いまなお、この竹生島の可愛御堂という建物のなかに生をたもっているところをみると、あの夜か翌朝、島の西浦で、弁天堂の神官菊村宮内の手で救いあげられたにそういない。そして、柔和で子供ずきな宮内の手当が厚かったために、こうしてふたりとも、もとのからだに近いまでに、健康をとりもどしてきたのだろう。

「ありがとうぞんじます。もう体もよほどよくなりましたから、けっして、ごしんぱいくださいますな。そして、わがままのようですが、どうぞわたくしのからだを、この島からおはなしなすッてくださいまし」

竹童が、こういったものごしを見るにつけても、宮内は、向こうにいる蛾次郎とこの少年とは、なんという性格の違い方だろうと思った。

だが、かれは、どッちも憎いと思わなかった。竹童が好きなら、蛾次郎も好きだった。イヤ、菊村宮内という人物は、すべての子供――どんな鼻垂れでもオビンズルでもきたない子でも、子供と名のつく者ならみんな好きだった。