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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それがために、かれは武士の身分をすてて、この竹生島へ、可愛御堂という六角屋根の建物をたてた。

今日は東の国、あすは西の国と、つぎからつぎへ戦いがあってやまない世の中。――その兵火のたびごとに、武士も死ねば女も死ぬ百姓も死ぬ、まして、たくさんな子供のたましいも犠牲になる。

菊村宮内は、もと柴田勝家の家中でも、重きをなしていた武将であったが、そういう世のありさまをながめると、まことに心がかなしくなった。で、主君の勝家から暇をもらって、いくたの戦場をたずね、やがて竹生島の弁天の社にそって、この可愛御堂を建立した。

「弁財天は母である。そしてわしは不運なおおくの子供たちの慈父になりたい」

こういう願いをもっている。

ところが、さきごろから、琵琶湖の附近にも、戦の黄塵がまきあがった。すなわち、伊勢の滝川一益をうった秀吉が、さらにその余勢をもって、北国の柴田軍と、天下分け目の迎戦をこころみたのである。

不幸な子供の魂をとむらいながら、可愛御堂の堂守で生涯をおわろうと思っていた菊村宮内も、むかしの主人であり、ふるさとの兵である北国勢が、すぐ向う岸の木之本でやぶれ、賤ヶ岳から潰走するありさまを見ると、なんとなく心がいたんで、いっそのこと、島をでてふたたび主君の馬前に立とうかとさえ――ツイさっきも迷ったのである。