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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と――思うと蛾次郎は、ふいに五、六間ほどとびさがって、足もとから小石をひろった。卑怯! 飛礫をつかんだな! と見たので竹童も、おなじように大地のものを右手につかんだ。

だが、竹童のつかんだのは、石でもない、土でもない。

あたり一面に、雪かとばかり白く散っていた、糸桜の花びらである。

花びらの武器? なんになるのか蛾次郎にはわからない。畜生、すこし血があがっていやがるなと見くびってひろいとった石飛礫、ピューッと敵の眉間へ打ってはなすと、竹童すばやく身をしずめて指の先から一片の花をもみだして唇へあて、息をくれて、プーッと吹いたかと思うと、それは飛んで一ぴきの縞蜘蛛となり、つぎの飛礫をねらいかけていた蛾次郎の鼻へコビリついた。

これはかつて竹童が、人穴城へ使者としていったとき、呂宋兵衛の前でやって見せたことのある初歩の幻術、きわめて幼稚なものであるが、蛾次郎ははじめてなのでおどろいた。

「わッ」

といって、おもわず顔へ手をやった。すでに体はみだれたのだ。得たりと竹童、そこをねらって馳けよりざま、さらにつかんでいた無数の花びらを、エエッと、力いッぱい蛾次郎の頭からたたきつけた。