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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

深沈とふけゆく座敷のうちに、こう湿ッぽい密々話。ハテナ? ハテナ? なんだかどこかで、聞いたことのある声だぞと、亀の子のように、のこのこと蒲団の中から首をもたげだしたのは、独楽をもらったうれしさに昂奮して、つい寝つかれずにいた泣き虫の蛾次郎。

こういうことに出ッ会すと、がんらい、ジッとしていられない性分。よせばいいのに、ソロリ、ソロリと四ツン這いにはいだして、つぎの部屋の向こうがわの、線香のようにスーと明かりの立っているところを目あてに、

「だれだろう? そばできくと、よけいに聞きおぼえのある声だが……」

と、細目にすかして、烏天狗の仮面をつけたまま息を殺してさしのぞいた。

二

見てびっくりするくらいなら、のぞかなければいいものを、襖のすきへ仮面をつけたとたんに、

「あッ! こいツアいけねえ」

と仰天して、蛾次郎みずから、そこにじぶんのいることを、となりの武士に知らしてしまった。

草木のそよぎにも心をおくという、落武者の境遇にある者が、なんでそれを気づかずにいよう。

イヤ、当の蛾次郎よりははるかに胆をひやしたかもしれない。

「ヤ、だれか、となりへ!」

太刀をつかんでパッと立った。