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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いや、たとえ、駒とともに血を吐くまでも、それまでに三方ヶ原へかけつけねばならぬ」
「おお、もとよりそれぐらいなこと、この場合になんのことでもござりませぬ。して、その時には?」
「なんの手段をめぐらす時間もない。ただ、群集のなかにまぎれて、せつなに、矢来のなかへ斬りこみ、若君をはじめふたりの盟友を救いだすばかり」
「心得ました」
小文治は腕をうならせて、朱柄の槍をからぶりさせた。
さっさつたる朝の風が、駒のたてがみをこころよく吹き散らす。
ひゅうッ、と一鞭あてると、三騎はそのまま馬首をそろえて、東へひがしへ疾走していった。
やがて、やがて、渺茫とした裾野と、はてなき碧落が目の前にめぐりまわってくる。
海のようだ。五月の裾野、五月の大気。
目のとどくかぎり、十何里、ただ一色の青ずすきが、うねうねと風のままに波に似たる、波を立てている。
そのなかを、いとも小さな三騎がはしっていく。
風にかくれ、風に見え、風をついて疾走する。
ああまだ東海道へはへだてがある。なお浜松や三方ヶ原には間がある。覚悟のとおり、あの三騎は、とちゅうで血を吐いてしまいはせぬだろうか。
かかる場合は、千里をとぶ逸足ももどかしく、一日の陽脚もまたたくひまである。