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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

伊那丸さま、しばらくここへ」

と龍太郎はさしまねいて、ともにくさむらのなかへ身をしずめていると、まもなく船は岸について、黒装束の者がバラバラと陸へとびあがり、口々になにかざわめき立ってゆく。

「せっかく仕返しにまいったのに、かんじんなやつがいなかったのはざんねんしごくであった」

「いつかまた、きゃつのすがたを見かけしだいに、ぶッた斬ってやるさ。それに、すまいもつきとめてある」

「あの小僧も、あとで家へかえって見たら、さだめしびっくりして泣きわめくにちがいない。それだけでも、まアまア、いちじの溜飲がさがったというものだ」

ものかげに、人ありとも知らずにこう話しながら、浜松のほうへつれ立ってゆくのをやり過ごした龍太郎と伊那丸は、そこを、すばやく飛びだして、かれらが乗りすてた船へとびうつるが早いか、力のかぎり櫓をこいだ。

「龍太郎、いったいいまのは、何者であろう」

舳に腰かけていた伊那丸が、ふといいだした。

「さて、この夜中に、黒装束で横行するやからは、いずれ、盗賊のたぐいであったかもしれませぬ」

「いや、わしはあのなかに、ききおぼえのある声をきいた。盗賊の群れではないと思う」