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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「はい」とすなおに腰をかがめた。

「どこへいくんだ、いまごろ?」

「甲府へまいります」

「なにをしに?」

「ちかごろ、甲府のご新城は、代がかわって、たいそう暮らしよいといううわさを聞きましたので」

「じゃあ、きさまは、武田家の時分よりは、いまの徳川の御代をありがたいと思ってゆくのか」

「さようでございます。昔からのご縁故で、わたくしは、どこでもよいから、徳川さまのご領地に住みたいと願っております」

「ふウム……そうか……」

と伊部熊蔵はわるい気持がしないようすだ。卜斎の目から見れば、この山目付らしい侍が、どこの大名に属している者かぐらいは、腰をかがめた時にわかりきっている。

「して、職業はなんだ? じつは、この街道は、今日すこしぶっそうなことがあるから、さきへいっても通してくれるかどうかわからない」

「ヘエ、それはこまりましたナ」

と卜斎、ぺしゃんこな鼻に皺をよせて、

「わたくしは、もと富士の裾野におりました鏃鍛冶で、徳川さまのご家中のお仕事をした者でございますから、なんとか、ひとつ無事に通れるようなおはからいをしてくださいませんか」

「ウム、それはしてやってもよいが」