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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「しまッた!」

と叫ぶまに、もう見ている間だ! 蛾次郎のあとから小頭の雁六、伊部熊蔵、そのほかあまたの山掘夫たち、防ぎようもなくヒラリヒラリととびあがって、たちまち軍師の間いッぱいになってしまった。

三

「おい、下にいろッ」

と、伊部熊蔵は竹童の肩骨をおした。

「…………」

竹童は肩をふってその手を突っぱなした。咲耶子もすわらずに、まわりの者をにらんでいた。

瞬間、おそろしいだまりあいのうちに、双方の眼と眼だけがするどくからみあった。

とつぜん、ゲタゲタと笑いだしたのは蛾次郎で、

「おいおい竹童、あんまりびっくりしたんでぼうとしてしまったんじゃないか。いくら民部や蔦之助がいるように見せかけていたッて、だめだだめだ、おれも親方も、ちゃんと三方ヶ原であいつらを見ているんだから。――もうあとの空巣へは大久保長安さまの人数が、入れ替りにふもとまで引っ越しにきているんだ。サ、おどきよおどきよ、どこへでも退散しなよ、もう小太郎山の砦は、いまから徳川さまの持物になる、おまえみたいに、京都でお菰をしてきたようなきたないやつは飼っておけないんだ。サ、咲耶子も一しょに山を下りてゆけ、ぐずぐずしていると、命がねエぞ」