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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

や琴。

だが、知らぬものにはふしぎな郷だ。

林檎色の頬をした、健康そうな少女たちばかりすんで、いったい、なにを職業とし、父や兄や祖父などはないものかしら?

まさか、女護ヶ谷でもあるまいに。

それは。

みんな冬にはかえる少女だ。雪を見れば甲府へかえり、春になれば夏のすえまで、少女ばかりでこの谷にくらしている。

で、目的は? やはりかせぎにくるのである。そしてその一棟一棟で、みな職業がちがっているのもおもしろい。

河べりに近い家では、糸や麻をさらしていた。そのとなりでは染物をしている。また一軒では鹿皮をなめし、小桜模様、菖蒲紋、そんな型おきをしている家もあった。

ここの渓流では砂金がとれる、砂金をうって鎧小太刀の金具をつくる少女があり、そうかと思うと、皮をついで絹糸で、武具の草摺りをよろっている家も見える。とにかく、ここでは、革、草摺り、旗差物、幕の裁縫、鎧下着、あるいはこまかいつづれ錦、そのほか武人の衣裳につく物や、陣具の類をつくるものばかりが棲み、そして、それがみなかわいい少女の手に製作されていた。

この渓谷の水が染物によく適し、ここの温度が革づくりによいせいだというか、とにかく、緋おどし谷の開闢は、信玄以来のことである。