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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
裾野の闇に乗じられて、まんまと、六部の龍太郎のために、大せつな主君を、うばいさられた、かれの無念さは思いやられる。
したが、不屈なかれ忍剣は、たとえ、胆をなめ、身を粉にくだくまでも、ふたたび伊那丸をさがしださずに、やむべきか――と果てなき旅をつづけていた。
おりから、天下は大動乱、鄙も都も、その渦にまきこまれていた。
この年六月二日に、右大臣織田信長は、反逆者光秀のために、本能寺であえなき最期をとげた。
盟主をうしなった天下の群雄は、ひとしくうろたえまよった。なかにひとり、山崎の弔い合戦に、武名をあげたものは秀吉であったが、北国の柴田、その他、北条徳川なども、おのおのこの機をねらって、おのれこそ天下をとらんものと、野心の関をかため、虎狼の鏃をといで、人の心も、世のさまも、にわかに険しくなってきた。
そうした世間であっただけに、忍剣の旅は、なみたいていなものではない。しかも、酬いられてきたものは、けっきょく失望――二月あまりの旅はむなしかった。
「伊那丸さまはどこにおわすか。せめて……アア夢にでもいいから、いどころを知りたい……」
足をやすめるたびに嘆息した。