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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「ウム、それなら、どこかでわれわれと落ちあう時機もあるだろう」
「どうかそうありたいものだ、勝敗はいくさの常、小太郎山が敵方の手に落ちたのもぜひないことと伊那丸さまもあきらめておいで遊ばす。また事実は、竹童と咲耶子のおさない者とかよわい少女に、とりでの留守をあずけたほうがムリだったのじゃ。責めは竹童よりむしろ一党の人々にある、どうかして、かれの無事を知りたいものだが……」
と、話はいつか打ちしずんでくる。
人の力でどうにもならないのは、皮肉な運命で、その運命をえて案外にくるわすものは、これまた人力の自由にならぬ時間というものである。竹童と咲耶子をとりでにのこして、民部そのほかの人々が、三方ヶ原へ馳けつけなかったら、あの時の伊那丸の運命はどうなったかわからない。
その危急を切りぬけてきたかと思うと、一行伊那丸をいれて六人、富士の裾野までかかってきた朝、かえるべき小太郎山のとりでに、あの夜明けの落城のけむりをゆく手に見たのであった。
たった、半日、もしくは半夜の時間のちがいで――。
馳けつけて見たところでもうおそい。
とりでの上には下がり藤の旗さし物と、葵の印が王座をしめて戦勝をほこっている。