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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

碓氷の合戦は甲軍の大勝となって、敵将の憲政の首まであげたので、以来、信玄はその鷲を館にもちかえり、愛育していた。信玄の死んだあとは、勝頼の手から、供養のためと恵林寺に寄進してあったのである。ところがある時、檻をやぶって、民家の五歳になる子を、宙天へくわえあげたことなどがあったので、扇山の中腹に石柱をたて、太い鎖で、その足をいましめてしまった。

幼少から、恵林寺にきていた伊那丸は、いつか忍剣とともに、この鷲に餌をやったり、クロよクロよと、愛撫するようになっていた。獰猛な鷲も、伊那丸や忍剣の手には、猫のようであった。そして、恵林寺が大紅蓮につつまれ、一山のこらず最期をとげたなかで、鷲だけは、この山奥につながれていたために、おそろしい焔からまぬがれたのだ。

「クロ、いまこそわしが、おまえの鎖をきってやるぞ、そしてその翼で、大空を自由にかけまわれ、ただ、おまえをながいあいだかわいがってくだすった、伊那丸さまのお姿を地上に見たらおりてゆけよ」

そういいながら、鎖に手をかけたが、鷲の足にはめられた鉄の環も、またふとい鎖も断れればこそ。

「めんどうだ――」と、忍剣は鉄杖をふりかぶって、石柱の角にあたる鎖をはッしと打った。