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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

勘助流火合図

一

ところもあろうに、こんな馬糧だらけな馬糧小屋のなかで、いきなりぶつかりあおうとは、両童子、どっちも夢にも思わなかッたことにちがいない。

「おおッ!」

「やッ!」

とふたりのおどろき。

ピュッと水火両性がはじきあってとんだように、はねわかれた暗中二つのかげ。

双方しばしは天井と馬糧のなかとで、息をこらし、らんらんたる眼光を睨めあっていたが、やがてこれこそ、梁の上から鞍馬の竹童、じッと彼なることを見さだめて、

「ウーム、おのれは、蛾次だなッ」

と、うめくがごとく叫んだ。

「そうよ!」

蛾次郎もすばやく水独楽をふところの奥にねじこみ、代りにあけび巻の錆刀をもってかまえをとり、柄に手をかけて屋根裏の虚空をにらみつけた。

「――下りてこいッ!」

と声いッぱい。

あいかわらず鼻息だけはすばらしい。

「オオ、ゆくぞ」

「ウム、こい、こんちくしょう」

とどなりかえしたが、ガサガサ……と腰の下の馬糧のワラがくずれるとともによろついて、もう蛾次郎の臆病風、あたまの上へいつ落ちてくるかわからない敵のかわしかたをかんがえていた。

だが、これを勝負の前兆とはみられない。

蛾次郎の争闘力は、いつも、この腕よりは口である。