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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
(はて……どこかで見たことがある)
いくども首をひねって考えたが、どうも思いだすことができない。
徳川家の使者についてきた侍、横顔をさしのぞくのも無礼であるし、疑念のあるものをやすやすと、主君の前へ近づけるのはなおのこと不安なはなし。
で――作事門からついてきた番士に、ソッと耳をよせてきいてみると、
「あの方ですか。あれはただいまたしか、菊池半助とか名のりました」
「えッ、菊池?」
そうだ!
それで可児才蔵にも思い起すことができる。かれは徳川家の伊賀衆隠密組の組頭で、かつて富士の人穴城へ、じぶんが主命でようすをさぐりにいったとき、はじめてその名を知った男だ。
(これはいけない! 油断のならない使者のお供だ)
かれがそう思いあたった時には、もう、秀吉のまえにきて、一同横列になっていた。
秀吉は、ヤアと友だちを迎えるようにして、はなはだかんたんに、来意をきく。
けれど、いくらかんたんにされても、なれなれしくあつかわれても、ひとりでに使者のからだは固くなってヤアに対して、オウというような円滑なへんじはできないで、
「左少将さまにはいつもながら、ますますご健勝のていに拝せられまして、かげながら主人家康も祝着にぞんじあげておりまする」