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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と、しんせつにいってくれるものがある。

「ありがとうぞんじます」

ふたりはていねいに腰をかがめてそこへはいり、笈をおろして茶の馳走になった。

ここにも、明日の御岳見物がどっさり話し合っていた。が、なにかの雑談の端から、身の上をきかれて、女巡礼は涙をうかべながらうつ向いてしまった。

菊村宮内は、きのうはからず阿弥陀街道の茶店で、この女房がわるい街道人足に迫害されているのをみかけて助けたことから、ここへくるまでのみちみちに、その身の上を聞いたので、

「わたしが代って――と申しては、まことにさしでがましいようでござるが、なるべく多くの人さまに、聞いていただいたほうが、この方のため、ぞんじているだけをお話しいたしますが」

と、人なかでは、口のきけない巡礼の女房にかわって、

「じつはこの女は、甲州の水晶掘りの女房で、お時といいますが、わけがあって自分のひとりの児をたずねあるいておるんです」

「へえ、子供をね……ふうむ……それやかわいそうなこった」

「どこかに、生きていれば十四、五になる男の児、おさない時に、伊勢参りのとちゅうではぐれたままなので、なんの証拠もなさそうですが、たッた一つ……」