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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「そうか!」

「おお」

というと、もう忍剣は例の鉄杖を小脇にして、鐘巻一火の幕前へいきおいこんで馳けだしていた。

なにがさて、髀肉の嘆をもらしながら、伊那丸のゆるしがでぬため、いままでジッと腕をさすっていた人々、鎖をとかれた獅子のような勢いだ。

竹童もあとにつづいて馳けだしながら、口にはださないが心のうちで、

(さあこい! おいらのおじさんたちの男らしさを見てくれ!)

そんな誇りがどこかにあった。

すると、ほとんど同時のこと。

咲耶子をてんぐるまにして引きあげてきた鐘巻一火のあとを追って、そこへ殺到した人々がある。

大講会総奉行の大久保石見守長安、その家臣、その目付役、その介添役、等、等、等。

いきなり一火の溜り場へドカドカと入ろうとすると、なかから姿をあらわした鐘巻一火じしんと、屈強な門弟が、帳の入口にたちはだかって、

「やあ狼藉者、どこへゆく!」

と、大手をひろげた。

徳川家の重臣、甲州躑躅ヶ崎の城主、大講会総奉行、それらの肩書を威光にきている長安は、

「どこへまいろうと仔細はない。身は総奉行の大久保石見守じゃ」

と言下に肩をそびやかしていった。

「だまれッ」