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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

かれの目はしきりにうごいて、うしろの樹立をすかしたり暗緑な境内を見まわしたりしたが、ついに、そこからなにものも見いだすことはできなかった。――たださいぜんから明らかに知っていて、べつに気にも止めなかったのは、鳥居の横木にうずくまっている一羽の灰色の鳥だった。

ところが、かれの鼻のさきへ、上から額縁の矢が抜けて、ポーンと落ちてきたので、眸をこめて見なおすと、その灰色のかげが鳥ではないのがはじめてわかった。

衣のような物をきている人間だ。鳥居の横木に腰をおろし、杖のようなものを持っているあんばい。

矢を落として、するすると横木の端へはいだしてきた。

銀のような髯が頤からたれて風をうけているのが、そのときには、下からもありありと仰がれた。老人はやがて椋の梢にすがって、蜘蛛がさがるようにスルスルと降りてきた。

「あッ、あなたは果心居士先生」

「小文治、ひさしく相見なかったの」

「どうして、あんなところに」

「まあよい、そこへすわれ」

すわって話しこむどころの場合ではないが、ついぞここしばらくのあいだ、一党の人に影もすがたも見せないでいた果心居士が、こつぜんと、そこに立ったのであるから、小文治もぼうぜんとして、思わず、腰をついてしまった。