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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「きょうはえらいさわぎだったな」

居士はいつもかわりのない童顔に明るい微笑を波のようにたたえて、

「わしも、すこしあんじられたので、きょうは早くからあれに腰をすえて見物していたのじゃ」

と、鳥居の上を指さした。

「えッ、では、先生には、あの鳥居の上から御岳の試合をながめておいであそばしたので」

「よく見える。あたかも鞍馬の上から加茂の競馬を見るようにな」

「して、いつこの武州へ」

「ゆうべ、なにげなくれいの亀卜の易をこころみたところが、どうもはなはだおもしろくない卦面のしらせじゃ。そこでにわかに思い立って、きょうぶらりとやってきたが、はたしてこのさわぎ……」

小文治は居士の話にいろいろな疑念をはさんだ。亀卜の易とはなにか? また京の鞍馬山から武州まで、きょうぶらりとやってきたというのも、自分の聞きちがいのような気がした。

けれど、かれがそんなことに頭をそらしているうちに、居士はずんずんとさきの話をいいつづけていて、

「で、なによりあんじられたのは、万が一にも、咲耶子の身を徳川家のほうへとられると、おそらく、ふたたび助けだすことができまいということであった。なぜといえば、家康の心のうちには、いよいよ邪計の萌しがみえる。