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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「わしがみるところでは、世はいよいよ乱れるだろう、いくさは諸国におこって絶えないであろう、人間はますます殺伐になり、人情美風はすたれるだろう。なげかわしいが天行のめぐりあわせ、まことにぜひないわけである」

と、空をあおいでそういった。

ああ悠長な。

小文治がことばをはさもうとすると、そこをまた、

「伊那丸君にもよく言伝をしてくれよ。よいか、ますます自重あそばすようにと」

「は、心得ました」

いい機と、小文治が立ちかけると、

「あ、待て」

またか、――そう思わずにいられないで、

「さきをいそぎますゆえ、なにとぞ、このまま失礼ごめんくださいまし」

と、そこに落ちている矢をひろって右手につかむと、居士も、やっと腰をあげて、

「小文治、その品ばかりでは心もとない、いずれこの空がまッ赤に夕焼するころには、御岳の山も流血に染まるだろう。――戈をうごかすなかれ、血をみるなかれの神文もとうていいまの人心には守られる気づかいがない。見ろ――」

手をあげた居士の指が、そこから対山の中腹をゆびさした。

「あれを見ろ、小文治。みだれた凶雲と殺気にみなぎっている」

「では、兵法大講会の第二日も、いよいよ無事にはおさまりませぬか」