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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

……だが、お時さん、女の足ではさだめしおつかれなすッたろうな」

「いいえ、すこしも」

「急いてはいけませんよ。息を平調にもっておあるきなさいよ。道にまよった時はなおのこと、山は気を落ちつけて歩くにかぎります」

地蔵行者の菊村宮内と、坂東巡礼のお時とであった。ほんの旅先の道づれであるが、ふたりの仲のよいことは、おなじ家にすむ家族といえどもない美しさだった。

お時は宮内の身のまわりのこまかい世話を見、宮内はつねにお時の心ぼそい旅をはげまして、どうかしてこの女房のたずねている、まことの子供をさがしあててやりたいと祈っている。

あらためていうまでもなく、ここは御岳のお止山で、足踏みのならないところだのに、ふたりはその禁制を気づかずに、どこの山境から迷いこんできたのであろう。

と、宮内は腰をかがめて、なにかふしんそうな顔をしながらひろいとった。

「こんなところに、南蛮わたりの短銃がおちている……」

「宮内さま、まだこのへんに、草履だの、紙だのいろいろなものが落ちておりますよ」

「なるほど」

「だれの持物なんだろう?」

お時は、草履の小さいのが気にかかった。

「どれ、どれ」