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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

「では、ご承知ないので?」

「いや、ただいまが初耳、それと知っておりましたら、もとのご縁故も浅からぬこと、ぜひおひきとめ申すのであったに」

「それでは、おゆくえもわかりますまいな」

「さらに承知いたしませぬが。……その伊那丸さまのお年ごろは」

「天目山にて、お父上とともにお果てあそばした太郎信勝さまよりお一つ下――本年お十六歳にわたらせられる」

「して、お付人は?」

「いずれも、わざと姿をかえておりますが、小幡民部はかたがたしい武芸者風、巽小文治と申すはもと浜名湖の船夫の子とかにて目じるしには常に朱柄の槍をたずさえております。また浪人風の山県蔦之助、六部姿の龍太郎、わけても恵林寺の弟子僧加賀見忍剣と申すものは、武田家滅亡いらい、寸時もおそばを離れることなくおつきそい申しておる忠節な男……」

話しているうちに神主長谷川右近の顔が、発作的な病気でもおこしたように、ワナワナと唇をふるわせて、まったく土気色になってしまった。――と急に座をたって、

「しばらくの間、中座ごめんを」

足も畳につかぬようすで、奥の座敷へかくれこんだ。

とりのこされた一学は、なにか、急病で不快でも起したのかと思っていたが、それから、待てどくらせど、神主の返辞もなければ神官たちの応接もない。