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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

菊亭家と武田家とは、ふかい血縁のある家すじである。その晴季からなんの便りであろうかという点も、伊那丸には、胸おどろしく感じられる。

読みくだしてゆくうちに、伊那丸の目はいっぱいな涙になった。義憤と悔恨の血が交互に頬を熱くした。

伊那丸よ――

菊亭晴季の文はこう書きだしてある。さらにその文意をくだいてここにしるせば、こういう愛国的な長文であった。

伊那丸よ。

都でも近ごろはそなたのうわさをしばしば耳にする。勇ましいことである。けなげなことである。そなたは、貧しくとも、信玄公の名をはずかしめない。

わしは、かげながらよろこんでおる。

だが、そなたはも早や、元服の若者である。一人前の武士となるべきだ。いつまで小さな私怨にとらわれているばかりが真の武士でもなかろう。眼をひろい世の中にみひらいてたもれ。

この一年有半の歳月に、そなたはいまの世相をよくながめ得たであろう。どうであった戦国の浮世は。わけても百姓町人――いやそれよりもっと貧しい民たちの苦しみはどうであろう。

また、あるいはそなたも知らぬであろうが、畏れ多いことながら、いまの御所のお模様は、その貧しい人々よりもまさるものがある。