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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

そのなかに、伊那丸のすがたを見出したので、忍剣は、思いやりの深い主君の心がわかって、無言のうちに涙がうかんだ。

かれの健在を祝福しあうと、人々はすぐに、

「忍剣、すぐに京都へいそぐのだぞ」

と、活気づけるようにいった。

「えッ、都へ」

「くわしいことは、あとで若君からお話があろうが、きょうからわれわれは、甲州土着の武士という心を捨てることになったのだ」

「なぜ?」

明らかに不平が、かれの顔色にうごいた。

が、一党の友の顔は、みな、いつもにも増して晴れやかに見えた。

「甲州武士などというせまい気持をすてて、まことの神州武士となるのだからいいじゃないか。われらの愛国は甲斐ではなくなった。日本だ。かがやきのある神州扶桑の国だ」

「そして?」

忍剣には、友のことばが不意にきこえた。まだじゅうぶんに胸に落ちないらしい。

「あおぐは一天の帝」

「それは、だれにしてもそうではないか。いまさらこと改めていうことはないだろう」

「いや、戦国の武将たちは、みんなそれを忘れている。もうひとつ忘れていることがある。それは貧しい下々の民だ。われらの味方するのはその人たちだ」

「どうしてにわかに京都へのぼることになったのか」