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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「お! クロだ、クロだ」

かれが血刀を振って、狂喜のこえを空になげると、クロはしずかにおりてきて、小船のはしに、翼をやすめた。

「ちがいない。やはりクロだった。それにしても、どうして、あの鎖をきったのであろう」

ふと見ると、足に油紙の縒ったのが巻きしめてある。伊那丸はいよいよふしぎな念に打たれながら、いそいで解きひらいてみると、なつかしや、忍剣の文字!

若さま、このてがみが、あなたさまの、お目にふれましたら、若さまのおてがみも、かならず私の手にとどきましょう。忍剣いのちのあらんかぎりは、ふたたびお目にかからずにはおりません。甲斐の山にて。

ハラハラと、とめどない涙を、その数行の文字にはふり落として立ちすくんでいた伊那丸は、いそいで小屋に取ってかえし、今の窮状をかんたんに認めて、かけもどってきた。

夜はほのぼのと、八重の汐路に明けはなれてきた。

見れば、クロはよほど飢えていたらしく、五人の死骸の上を飛びまわって、生々しい血に、舌なめずりをしていた。

同じように、かえし文を、鷲の片足へむすびつけて、それのおわったとき、伊那丸の目のまえに、さらに呪いの悪魔が悠々とかげを見せてきた。