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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

なんでも石櫃とやらにはいっている、武田さまのお家の宝だともうすことでござります」

「む、よう訴えてきた。褒美はぞんぶんにとらすからあんないせい」

梅雪の顔は、思いがけない幸運にめぐり合ったよろこびにあふれた。――が、駕籠側にいた民蔵は、サッと色をかえて、この不都合な密告をしてきた少女を、人目さえなければ、ただ一太刀に斬ってすてたいような殺気をありありと目のなかにみなぎらせた。

行列はきゅうに方向を転じて、五湖の一つに沈んでいる宝物をさぐりにむかった。けれども、道案内に立った咲耶子は西も東もわからぬ広野を、ただグルグルと引きずりまわすのみなので、一同は、道なき道につかれ、梅雪もようやくふしんの眉をひそめはじめた。

「民蔵はいないか、民蔵」と呼びつけて、

「小娘の挙動、だんだんと合点がいかぬ。あるいは、野かせぎの土賊ばらが、手先に使っている者かも知れぬ、も一ど、ひッ捕えてただしてみろ」

「かしこまりました」

民蔵は得たりと思った。ばらばらと前列へかけ抜けてきて、いきなり、むんずと咲耶子の腕首をつかんだ。

「小娘ッ」まことは甲州流兵法の達人小幡民部が、こういってにらんだ眼光は射るようだった。