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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それをうるさいと思ってか、蔦之助は、以来ピッタリ道場の門をとざして、めったにそとへすがたを見せず、世間の悪口もよそに、兵書部屋へこもり、ひたすら武技の研究に余念がなかった。

その日も、しずかに兵書をひもといていた蔦之助は、ふと町にあたって、ガヤガヤという人声がどよみだしたので、文字から目をはなして耳をそばだてた。とそこへ、下僕の関市が、あわただしくかけこんできてこういう。

「旦那さま旦那さま。まアはやくでてごらんなさいまし、とてもすばらしい大鷲が、比叡のうしろから飛びまわってまいりました。お早く、お早く」

「鷲?」

と蔦之助は部屋から庭へヒラリと、身をおどらして大空をあおぐと、なるほど、関市のぎょうさんなしらせも道理、かつて話に聞いたこともない黒鷲が、比叡の峰の背からまッさかさまに大津の空へとかかってくるところ。

「関市! 張りの強い弓を! それと太矢を七、八本」

「へい」と関市が、大あわてで取りだしてきた節巻の籐にくすね引きの弦をかけた強弓。とる手もおそしと、槙の葉鏃の太矢をつがえた蔦之助は、虚空へむけて、ギリギリとひきしぼるよと見るまに、はやくも一の矢プツン! と切る、すぐ関市が代り矢を出す。