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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

胆をけした穴山一族の将卒は、血眼になって、草わけ、小川の縁をかけまわったが、もうどこにも一人の敵すら見あたらず、ただいちめんの秋草の波に、野分の風がザアザアと渡るばかり。

狐につままれたようなうろたえざまを、丘の上からながめた咲耶子は、帯のあいだに笛をはさみながら、ニッコリ微笑をもらして、丘のうしろへとびおりようとしたその時である。

「咲耶子とやら、もうそちの逃げ道はないぞ」

りんとした声が、どこからか響いてきた。

「え?」思わず目をみはった彼女の前に、ヒラリとおどりあがってきたのは、いつのまにここへきたのか、さっきまで采配をとって敵陣にすがたをみせていた小幡民部であった。

「あッ」

さすがの彼女もびっくりして、丘のあなたへ走りだすと、そのまえに、四天王の佐分利五郎次が、八、九人の武士とともに、槍ぶすまをつくってあらわれた。ハッと思って横へまわれば、そこからも、不意にワーッと鬨の声があがった。うしろへ抜けようとすればそこにも敵。

いまはもう四面楚歌だ。絶望の胸をいだいて、立ちすくんでしまうよりほかなかった。とみるまに、丘の上は穴山方の薙刀や太刀で、まるで剣をうえた林か、針の山のように、いっぱいにうずまってしまった。